「ねぇ、篠宮(しのみや)、ちょっと試してみてもいい?」

「え、な……」

「"Kneel(お座り)"」

「あ……」

 ドクンと心臓が嫌な音を立てる。前触れもなく告げられたコマンドに膝がガクンと崩れ、持っていた教材が俺の手から滑り落ちた。落下する物と共に膝が冷たい床に当たって。妙な息切れがした。

 突然のことに混乱してしまう俺を見下ろしながら、コマンドを繰り出したDomであろう其奴はゲラゲラと嗤っていて。その周りにいる奴も一緒になって悦に入っていた。

「当たりじゃん」

「篠宮はSub」

「本当に指示通り動くんだ」

 生徒が行き交う廊下の床に座り込む俺は、どんな状況であろうとDomからの命令には抗えなかった。立ちたくても立てない。それどころか、胸がドクドクと音を立て、欲求が満たされるような感覚が全身を貫く。俺、指示に従った。褒めて。従いたくないのに。従った。従ったから。褒めて。

 本能的な願望に顔を上げるけど、目の前の彼らは俺を無視する。無視して、嗤って。犬みたいだし、これもいけんじゃね? とSubである俺で遊んだ。