不器用かよ。



「お前,可愛いね」



笑ってみて,自分でも驚いた。

俺,こんな風に優しく笑えたっけ?



「はぇ!? なっ……あのっありがとうっ!」



彼女は顔を真っ赤にして,一瞬で真顔に戻ると,俺から荷物をひったくる。

そして俺とは真逆の方に走っていった。

彼女は,動揺すると敬語が外れるらしい。

それに,彼女の無表情は自分を守るための盾でもあることに気がついた。

ほんと可愛い。

こんな感情を抱いたのは久しぶり。

しかも人間相手とか初めてかもしれない。

不器用かと思ったけど,あれは違う。

不器用には不器用だけど,あれはツンデレと言うやつだ。

俺に,懐いて欲しい。

本当に,あいつをミステリアスだと遠巻きにしているやつは見る目がない。

急がないと,ああいうのは話し掛けられたりしたら意外と平気で笑顔を振り撒くタイプだ。

俺以外のやつに知られるなんて許せない。

……なんでだろ…

あぁ,珍しいからか。

特に気にせず目的地に向かう。

残念ながら,俺の辞書に一目惚れとか言う単語は載っていなかった。