導師がモニカに聖水をふりかけ全身を清めたら、聖職者ふたりが奥からシルクの布に包まれた長物を大事そうに運んできた。

それは教会に伝わる“聖女のロッド”で、モニカは初めて目にする。

まさか三千年前のアグニスのものではないと思うが、三百年以上の歴史があるのは間違いない。

覆いがはがされると、静まり返っていた聖堂内に「おお」と感嘆の声が上がった。

モニカの背丈より頭ひとつ分ほど長い棒で、先端は波模様がついた輪になっている。

その輪に水晶玉がはめこまれていた。

天窓からの光を受けて金色に神々しく輝き、いかにも聖なる力を宿していそうに神秘的だ。

モニカが台座に差し込まれたロッドの前に、列席者の方を向いて立つ。

「祈りなさい」

導師に促されてモニカは目を瞑り、指を組み合わせた。

この日のために暗唱した古語の呪文を呟いて目を開けると、ロッドに手を伸ばす。

(これを握ったら輝くのよね? 私の中に豪雨を降らせられるほどの強大な魔力が生まれて、聖女になれるんでしょ?)

ゴクリと唾を飲み、ロッドの柄を掴んだモニカであったが――。

なにも起こらなかった。