(他にも意に染まぬことがあれば容赦なく牢に入れるとか、私服を肥やすために税金を上げたとか、よくない噂ばかり。ひどい皇帝でバーヘリダムの民が可哀想ね)

シュナイザーがどんなに容姿端麗であってもモニカが少しも心惹かれないのは、叔父ひとりに罪を被せて権力を手にした冷酷非道の男というレッテルのせいに違いなかった。

精霊たちと初代聖女アグニスへの感謝の祈りが捧げられ、列席者たちが聖水に手を浸す。

ここまで一時間ほどかけて儀式は滞りなく進み、いよいよモニカの出番がきた。

モニカが控えているカーテンに導師の視線が向く。

「それでは次代聖女となるモニカ・メルネスを紹介いたしましょう。モニカ、ここへ」

「は、はい」

いざとなると手が汗ばむほどの緊張が押し寄せる。

これからなにをしてどうなるかの説明は受けていても、すべてが初体験。

前回この儀式が行われたのは三百年前で、モニカだけでなく誰も経験がないのだから心配になって当然なのだ。

(どうか無事に終わりますように)

モニカは祭壇の中央に立たされた。

拍手も歓声もなくシンと静まり返っており、列席の三十名ほどの視線が突き刺さる。