バーヘリダムは国境が高い山脈のため安全とみなされているが、一国だけ招待しないわけにいかないからだろう。

(噂に聞くバーヘリダムの皇帝はあの人?)

モニカは国賓席の若者に目を留めた。

耳が半分隠れる長さの艶やかな黒髪に、力のある翡翠色の瞳が印象的だ。

黒っぽい軍服の胸もとにはいくつもの勲章が飾られて、肩章付きのマントを羽織っている。

ハッとするほど美麗な青年であった。

(たしか名前はシュナイザー……なんだったかしら。美しい人ね。そんなに怖そうには見えないけれど)

モニカが聞いたのは二年前の帝位継承についての噂。

前皇帝が高齢のために逝去し、その息子の皇太子が即位する予定だったのだが暗殺されてしまった。

首謀者は前皇帝の遠縁にあたるシュナイザーの叔父。

自分の一族から皇帝を出したいがための凶行だと聞いている。

シュナイザーは暗殺事件に無関係とされて帝位を継承できたそうだが、真の首謀者は彼なのではないかという憶測がまことしやかに囁かれていた。