これまでは大災厄からロストブを守ることだと思っていたけれど、聖女になれなかった今は生きるのに明確な目的がない。

モニカが困り顔をすれば、ガス灯のオレンジ色の光を浴びる彼が体ごと振り向いた。

陰影のはっきりした顔は昼間よりも麗しく、モニカは思わず心臓を波打たせた。

「水の精霊憑きとして生まれた意味を考えろ。精霊から名を聞きだすんだ」

精霊の名については鶴亀亭のバンジャマンも言っていた。

城を抜け出したことだけでなく、モニカが東地区で誰と会ってなにを話したのかも知っているような彼に、モニカは目を丸くした。

「どうして知っているんですか?」

モニカはよく言えば素直で悪く言えば短絡的なので、皇帝命令で誰かが尾行していたとまでは考えが及ばない。

シュナイザーは呆れの目を向けたが、その後にはニヤリと口の端を上げる。

「俺は大抵のことは知っている。だがまだ知らないこともある」

そう言うやいなや彼の片腕が伸びて、モニカは後頭部を押さえられた。

後ろ髪に男らしい指が潜り込んだかと思ったら、グイと引き寄せられて唇を奪われた。