追放された水の聖女は隣国で真の力に目覚める~世界を救えるのは正真正銘私だけです~

ナターシャの目が非難の感情を隠せずにいても、手元に視線を落としているシュナイザーは気づかない。

いや、気づいても一顧だにしていないのかもしれない。

彼は次の書類に手を伸ばして淡白な口調で返す。

「よくやった。今後はモニカが行きたい時に城を抜け出す協力をしろ。見送ったらすぐに俺かスプラドア宰相かゾフラム騎竜兵隊長に報告するように」

「かしこまりました」

ベルナール・スプラドア宰相とハンス・ゾフラム騎竜兵隊長は、皇帝からの信が厚い臣下だ。

ナターシャは三人がこの大邸宅の中庭で立ち話をしているのを偶然見かけたことがあった。

同じ年頃ではあるけれど、皇帝と臣下がまるで友人のような口調で話していたため驚いた。

ナターシャに気づいてすぐに口調を改めたところを見れば、三人でいる時だけの秘密であったようだ。

普段は冷たい印象の皇帝が、あの時だけはなんの憂いも企みもない素朴な笑みを浮かべていたと思い返す。

(皇帝陛下のお人柄が、いまだによくわからないわ)

ナターシャがシュナイザーと出会ったのは、三か月ほど前のこと。