追放された水の聖女は隣国で真の力に目覚める~世界を救えるのは正真正銘私だけです~

隣は空席だったが、ドアが閉められる直前に「間に合った」という声がして、モニカと同じ年頃の男性がそこに座った。

彼は大きな羊革のリュックを膝にのせ、ハンチング帽を脱いでフウと息をついた。

オレンジブラウンの短い髪は癖が強く、垂れ目で鼻の付け根にそばかすを散らし、人懐っこそうな顔をしている。

この辺りの身なりのいい買い物客と違い、貫頭衣に綿のベストというラフな格好だ。

「こんにちは」

モニカから声をかければ、彼はにっこりと微笑んでくれた。

「こんにちは。僕の荷物が場所を取ってすみません」

「大丈夫ですよ。大きなリュックですね。旅の方ですか?」

「いえいえ。スパイスの買い出しです。食堂で働いているので」

彼は東地区にある“鶴亀亭”という大衆食堂の従業員だという。

(亀って海の生き物よね。子供の頃に図鑑で見たわ。でも鶴って……あら?)

モニカがゆっくりと首を傾げたら、彼が苦笑する。

「変な名前でしょう。僕も初めはそう思いました。店主のバンジャマンさんが言うには、鶴というのは――」

「ひょろっとした大きな白い鳥で、頭が赤く首と羽根の一部が黒い……」