追放された水の聖女は隣国で真の力に目覚める~世界を救えるのは正真正銘私だけです~

「だめよ。お母さんは参拝客にお神酒を配るから千早は授与所に入って。あなたがいないと田中さんがトイレにも行けなくて困るでしょ」

授与所というのは社務所の横にあるお札やお守りを売る場所のことで、今の時間、巫女装束を着たアルバイトの田中がひとりで担当している。

千早が抜けることで迷惑する人がいると言われたら、諦めるしかない。

「わかった……」

(どうせ駄目だと思っていたものそんなに悔しくない。毎年のことだからわかっていたでしょ。仕方ないのよ)

自分に言い聞かせて授与所に向かおうとしたら、母に呼び止められた。

「三十分だけ、行っておいで」

急に許しが出たのは、娘の背中がしょんぼりとして見えたせいかもしれない。

「え、いいの?」

「まだまだ友達と遊びたい年頃よね。千早には我慢ばかりさせて悪いとは思っているのよ。ごめんね」

千早ははじける笑顔でお礼を言い、本殿を飛び出して社務所に駆け戻った。

着替えに使っている和室で巫女装束を脱いで浴衣を着る。

和装の着付けはお手の物で浴衣なら五分とかからない。

そこにヨーヨーをぶらぶらと揺らした弟の悠清が、退屈そうな顔で入ってきた。