それゆえシュナイザーは出自をひた隠しにしており、即位までの後ろ盾となってくれたゴウランガ公爵も知らぬことだ。

モニカは一週間前の帰路の馬車内でシュナイザーからそう説明され、出自の秘密を守るよう約束させられていた。

ナターシャに「どうなさいました?」と問われて焦り、立ち上がってごまかそうとする。

「少し早いけど行ってくるわ。じっとしていられないの」

それは本心でもあって笑顔でドアに向かえば、見送りにナターシャもついてきた。

「モニカ様、あの」

「うん?」

「お気をつけくださいませ」

安全な邸宅内でまさか攫われはしないだろうに、ナターシャは心配顔である。

彼女が誰に気をつけろと言ったのか、それを少しもわかっていないモニカは両肩を上げておどけてみせた。

「浮かれて転ばないようにってことね。気をつけるわ」

「違います。陛下に……」

ドアを開けているので周囲を気にしたナターシャの小声はモニカの耳に届かない。

ドレスの裾を翻し足取り軽く廊下を進むモニカは、恋心に胸を弾ませるのであった。



広々とした居間とサンルームと寝室の三部屋が皇帝の私室である。