モニカはシュナイザーの腕を引っ張り振り向かせると、驚いて問いかける。

「あなた、ザッくんなの!?」

両眉を上げたシュナイザーは、直後にニヤリと口角をつり上げた。

「そんな呼び方されていたか。気づくのが遅いだろ」

「だってまさかザッくんがバーヘリダムの皇帝だなんて思わないもの。それに突然いなくなってショックだったから必死に忘れようとしたのよ」

物心ついた時からシュナイザーはモニカのそばにいて、いつも兄のように助けてくれた。

幼いモニカが泣いたら面白い顔をして笑わせてくれて、寂しい時には手を繋いでくれた。

聖職者に怖い話を聞かされて眠れなかった夜は、宿舎のモニカの部屋の窓の下でところどころ音程を外した子守唄を歌ってくれた。

モニカが少し大きくなったら遊び相手になってくれて、町への脱走にも付き合ってくれた。

心から信頼し『ずっと一緒にいてやる』という言葉に安心していたのに、モニカが八歳の時に突然シュナイザーが修練所を出て行ったのだ。

モニカの遊びとは違う本気の脱走に聖職者たちが気色ばむ中で、モニカは強いショックを受けていた。