追放された水の聖女は隣国で真の力に目覚める~世界を救えるのは正真正銘私だけです~

もっと痛めつけてやりたそうな不満顔のシュナイザーであったが、「人に見られるかもしれないし」とベルナールに諭され、揃えた二本の指を悪党に向けた。

すると渦を巻きながら持ち上げるように吹いていた風がやんで、男たちも車体も手荒に地面に落ちた。

「わっ、このあと尋問するんだから怪我させるなよ」

ハンスの文句にシュナイザーが舌打ちする。

「尋問しなくたって首謀者はわかっている。ゴウランガ公爵だ」

ベルナールがため息をついて言う。

「そうだろうけど、雑魚の賊に素顔も本名も明かしていないだろう。証拠は出てこないんじゃないかな」

三人の会話はモニカの耳に届いても、頭に入らない。

シュナイザーが使ったのは明らかに風の魔力だ。

ただしモニカが今まで目にしたものより遥かに強大だが。

修練所にいた風の精霊憑きの子の顔が次々とモニカの頭を流れ、ひとりの少年でピタリと止まった。

翡翠色の力強い瞳を持った十二歳の少年が、シュナイザーと重なって見えた。

『泣くなって。俺がずっと一緒にいてやる。いつだって助けてやるよ、ちびっこモニカ』