追放された水の聖女は隣国で真の力に目覚める~世界を救えるのは正真正銘私だけです~

「マズい。この先にバリケードが見える。兵士もひとりいるな」

「こんな町外れの田舎道で検問か?」

「くそったれが。引き返すぞ。遠回りだが別の道から……うわっ!」

男が驚きの声を上げるのと同時に、モニカは急激な浮遊感を味わった。

(まさか、飛んでるの!?)

そのまさかのようで車体は地面を離れてグルグルと回りだす。

(キャー、竜巻!)

積み荷もモニカも遠心力で幌の外へ投げだされた。

竜巻など起きそうにない穏やかな日差が降り注ぐそこは、地面から十メートルほどの高所で、モニカは落下の恐怖に震えた。

しかしながら積み荷は落ちて壊れたのに、モニカの体は羽根のようにゆっくりと降下する。

広い畑の中を土の道がまっすぐに伸び、両端に防風林が立ち並んでいた。

幌馬車の二頭の馬はなぜか綱が切れて畑の中へ逃げていき、車体とふたりの男だけがまだ宙の高い位置を飛んでいる。

(どうなっているの?)

目を丸くするモニカは、やがて誰かの腕の中に収まった。

それはシュナイザーで、彼の深いため息がモニカの前髪にかかる。

「ったく、城内で大人しくしてろって言ったろ。勝手に攫われるな」