追放された水の聖女は隣国で真の力に目覚める~世界を救えるのは正真正銘私だけです~

大災厄が来たらロストブの民を守って聖女として死ぬ……聖職者からの洗脳で、モニカは自分の人生がそういうものだと信じて生きてきた。

聖女に覚醒できなかったから、名誉な死に方ができないと残念に思っていたほどだ。

けれども死が現実的にそこまで迫っていると感じた途端に恐怖に襲われた。

(嫌よ。死にたくない。誰か助けて!)

硬く目を瞑れば、シュナイザーの顔が浮かんだ。

精悍で美麗な大国の若き皇帝は、覚醒の儀に失敗して断罪されていたモニカを救ってくれた。

今回もまた助けてくれるのではないかと、すがる気持ちが沸いてくる。

瞼の裏に描いた彼はやれやれと言いたげな顔をしており、翡翠色の力のある瞳が兄のように優しく弧を描いた。

『助けてやるよ、ちびっこモニカ』

(え……?)

実際に聞こえたのではなく、記憶の中の声である。

声変わり中の少年のような少々ハスキーなこの声の持ち主は――。

モニカが思い出そうとしていたら、馬車が急停車し馬がいなないた。

(キャア!)

猿ぐつわのおかげで舌を噛まずにすんだが、積み荷の木箱に頭を打ち火花を見た。