追放された水の聖女は隣国で真の力に目覚める~世界を救えるのは正真正銘私だけです~

「お館様の条件は“ロストブ以外”だ。怒らせない方がいいと俺の勘が言ってる。他の族と取引して俺たちが消されるかもしれない」

「そうだな。危ない橋を渡るよりお得意様のスワントロ伯爵に売るのが賢いな」

その声は御者席からのもので、誘拐犯は若い男性ふたりのようだ。

モニカが水の精霊憑きだと把握していても、ロストブから見放された存在だとまでは知らないらしい。

自分が売られると聞いたモニカは肝を冷やしたが、恐ろしい会話にはまだ続きがあった。

「そういやこの前、川から女の遺体が上がった事件があったろ。あの女、俺らが先月スワントロ伯爵に売った娘だった。全身傷だらけで折檻死だな」

「サディストで有名だから仕方ねぇ。スワントロ伯爵がいつか御用になるまで稼がせてもらおうぜ」

「代わりの女を早くと急かされてたからな、ちょうどよかった。精霊憑きのこの娘は、伯爵の館で何日持つか」

同情のかけらもない「可哀想に」という声を耳にし、モニカは青ざめて震えた。

(そんなひどい人のところに売られるの?)