追放された水の聖女は隣国で真の力に目覚める~世界を救えるのは正真正銘私だけです~

平和な海に悔しさが薄れ、モニカの口角が上がったその時――。

急に後ろに誰かが立った気配がしたと思ったら、男の太い腕に捕らえられた。

悲鳴を上げるより先に薬臭い布を顔に押し当てられ、嗅いでしまったモニカは一瞬で気が遠のく。

抱えていた麻袋を落とし、リンゴがコロコロと波止場を転がって海に落ちてしまったが、それに気づくこともできないモニカは脱力して男の肩に担がれた。


どれくらい経っただろうか。

ガタゴトする振動でモニカが目を覚ませば、馬車の幌の中だった。

手足を縄で縛られ、口には猿ぐつわを噛まされて、硬い車体の木の床に転がされている。

揺れるたびに積み荷の木箱の角が腕にぶつかるけれど、拘束による体の痛みは小さいので気を失ってからさほどの時間は過ぎていないようだ。

(ええと、港で急に口を塞がれて……もしかして私、攫われたの!?)

気づいて焦ると同時に車体の壁の向こうから会話が聞こえてきた。

「大金払ってくれた上に攫った後は好きにしろってよ。お館様は太っ腹だな」

「ロストブの教会が水の精霊憑きを探してるって噂だぞ。そっちに掛け合った方が高値で買うんじゃないか?」