追放された水の聖女は隣国で真の力に目覚める~世界を救えるのは正真正銘私だけです~

買い物客の中年男性がそう言い、となりの男性がハハと笑った。

「わざわざ陛下自らお出ましとはマメだな。おかげで脱税も犯罪も減って悪党どもは仕事がやりにくい。俺たち良民は安心できる」

「けどよ、陛下だって悪党だろ。皇太子殺しは許せんな」

モニカは思わず「あの」と声をかけた。

(違うわ。陛下はそんな酷いことができる方じゃない)

シュナイザーと関わるようになって二か月ほどが経ち、その人柄が少しわかってきたところである。

わけを言わずに外出禁止を言い渡すような男だが、モニカに対する言動に冷酷さを感じたことはなく、皇太子殺しの真犯人だという噂は間違いだと今は信じている。

けれども他人を説得できそうな根拠はなく、なにも言い返せなかった。

「すみません。なんでもありません」

悔しくて唇を噛んだモニカは、お菓子を買う気分になれずにテントを離れた。

シュナイザーの一行は倉庫へと入っていったので見つかる心配はせず、海へ近づいていく。

(海を眺めて気を紛らわせよう)

風は冷たいが空はよく晴れていて、波は小さく穏やかに打ち寄せている。

遠くに帆船が数隻見えた。