朝食が済み……
しばしの休憩の後、支度をし、ロゼールとベアトリスは外出した。

護衛は……ベアトリスとともに客室に乗り込むロゼールと、
えり抜きの騎馬の騎士が3人。
この3人もロゼールが推薦する形で選ばれた。
御者は武技の達人の元騎士。
それで計5人となった。

護衛は極端に少なくなり、反対する者も居た。

しかし……
ベアトリスが強硬に主張。

「従来の、その他大勢的な約20人の騎士同行は大仰だから、絶対に嫌!」

と、きっぱり断ったのである。

服装は護衛をするロゼールは革鎧、ベアトリスはシックなドレス、である。

ふたりは、ベアトリスの専用馬車へ乗り込み、
御者が合図をすると、馬車は動き出した。

客車内で、向かい合うふたり。

ロゼールは行き先を聞いていない。
というか、確認したが、ベアトリスは教えてくれない。

仕方なく、ロゼールは再び尋ねる。

「ええっと、何度もお聞きして申し訳ありませんが、ベアーテ様はどこへお出かけになるのですか?」

「さあ、どこでしょう? 当ててみて」

やはり、ベアトリスは、ロゼールを焦らすように教えてくれない。

ロゼールは淡々と言葉を戻す。

「そうおっしゃっても、ロゼには皆目見当が付きません」

「そうお? じゃあ、大ヒント! 私とロゼ、貴女に関係があるところよ」

「ヒント……私とベアーテ様に関係がある場所」

ベアトリスから、ようやく大ヒントを貰い、ロゼールは考え込む。

自分とベアトリスの接点は、ラパン修道院のみである。
しかし、改革は既に為された。
その後は順調だと聞いている。

ただ今後、赴く必要はないとは言えない。
でも、今すぐ大至急で行く必要もない。

となれば……答えは。

ロゼールは、消去法で行きついた答えを返してみる。

「創世神教会との兼ね合い、ラパン修道院改革のご報告、行き先は……教皇様と枢機卿様のお屋敷でしょうか?」

「半分あったりぃ!」

半分?
当たり?

どういう意味なのだろうか?

ロゼールは戸惑いながら尋ねてみる。

「え? 半分? それって……」 

対して、ベアトリスはにんまり。

当たらずとも遠からずという顔付きで言い放つ。

「行き先はね、創世神教会本部! 今回のラパン修道院改革の最終報告に行くのよ! 教皇様と枢機卿様のおふたりと一緒に会うわ。1回で済むし! その方が効率的でしょ?」

ベアトリスはまさに規格外。
教皇様と枢機卿様のおふたりと一緒に会う!?
その方が効率的!?

理屈から言えば、確かにそうなのだが……

「ベアーテ様!」

「うふふ、なあに?」

「教皇様と枢機卿様のおふたりと一緒に会うのが1回で済んで、効率的って、ええっと……両名様ともとんでもない地位の方ですが……」

驚きながら、ロゼールが言えば、ベアトリスは「何言ってるの?」という表情だ。

「ロゼ! 私は忙しいのよ。いくらお偉いさんでも、ひとつの同じ案件なのに、別々に会ってられないわあ」

ベアトリスの言う事は、道理なのだが……

「はああ、分かりました。但し、出来ればですが、今後は事前にご予定を教えて頂ければと思います。私の仕事の範疇(はんちゅう)には、ベアーテ様のスケジュール管理もあるでしょうから」

ロゼールがやれやれという感じでいさめれば、

「うふふ、その通り! 私のスケジュールの管理と調整は、今後ロゼに頼むつもりよ! ごめんねえ」

意外にもベアトリスは素直に謝罪したのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

創世神教会本部……

世界宗教たる創世神教会の本部であり、王国各地の教会を統括。
聖地とのやりとりをしている場所だ。

テンプル騎士団という、創世神教会専属の騎士団が警備にあたっている。

入り口でも、テンプル騎士団の女子騎士による厳重なチェックがあった。

少し不機嫌そうな表情になったベアトリスであったが……
さすがにここでは暴れたり、怒ったりはしない。

そうこうしているうちに、ロゼールとベアトリスは、テンプル騎士団女子騎士にいざなわれ、創世神教会本部の応接室へ通された。

応接室には、教皇と枢機卿が待っており、笑顔であった。
満面の笑みと言っても良い。
年齢は教皇が70代後半、枢機卿が70代前半。
ふたりから見れば、ベアトリスは孫のようなものであろう。

挨拶が終わり、紹介もされた。

なので、頃合いと見たロゼールは、
テンプル騎士団女子騎士とともに控え室へ下がろうとした。

だが、ベアトリスは同席を命じた。

報告が始まった!

老齢の教皇と枢機卿は良い意味で、
ベアトリスをとても可愛がっているように見えた。

失礼ながら、ベアトリスは、『じじ転がし』が抜群かもしれないと思ってしまう。

時たま、ベアトリスは、ロゼールに確認と補足説明のフォローを求めた。

ラパン修道院の改革に関しては、ベアトリスとじっくり行ったので、
ロゼールは上手く話す事が出来た。

そんなこんなで、報告は無事終わった。

挨拶をして、再び馬車に乗り込んだロゼールとベアトリス。

報告は終わったが、その次にも、どこかへ赴く雰囲気である。

ここも確認が必要だろう。

「ベアーテ様、次はどこへ、行かれるのですか?」

ロゼールが尋ねると、

「うふふ、ある所へ、勝利宣言をしに行くの!」

「ある所へ? 勝利宣言?」

「ええ、ノーアポだけど、私のお友だちのところへ行く。ロゼの事も自慢したいしね」

ベアトリスはそう言うと、何かを含んだかの如く、
「うふふ」といたずらっぽく笑ったのである。