恋と旧懐~兎な彼と私~

「こっち見んなよ キモい」



……見てない。

翌日だった。

どうして人は存在を確認した途端に見つけやすくなるのだろうか。

生徒のよく使う廊下で,普通にすれ違ってしまった。

歩いてたら視界に入っただけで,寧ろそっとそらしたのに……

相変わらず理不尽。



「見てないから」



私は表情を変えずにそう言う。

こういうところが彼は気に食わないのだと私だって分かってる。

でも,人前で泣くなんて醜態をさらすわけにはいかないし。

動揺すら見せたくない。

それに,言い返したり感情的になると,逆ギレしたりするから。

和解したくても出来ない。

私を平気で傷つけようとするくせに,私が何か動いたら私の望まない反応をする人ばかり。

波玖の話ではないけど,焦ったり傷ついたみたいな表情をされるのが一番嫌。

波玖自身は好きだけど,そういうフェアじゃない関係は大嫌いだった。

今日もやっぱり,私がさらになにかをいう前に,何事もなかったように背中を向ける。

…やっぱり私の反応なんて気にしない。

怒って見せても,笑って流しても,キッと睨んで毒を吐いても。

どうでもいいんだ。

私は誰にも見えないようにきゅっと口を結んだ。