恋と旧懐~兎な彼と私~

「愛深だって,俺が知ってるなかで一番優しいよ。俺愛深のこと忘れたことないもん。唯兎見る目ない」



真面目な顔をして,ちょっと拗ねたように慧が言う。

暁くんは見る目があるから私を好きにならないんだと思うけど。

慧の中で私が美化され過ぎているのだと思うけど。

それでも私をそんな風に思ってくれてたのは,正直すごく嬉しかった。

私は口元に手を当てると



「ふふっ。ありがと」



はにかんで見せた。

正直な態度をとれるのは,きっと慧だから。

慧が真っ直ぐな言葉をくれるからだ。

そうだよね。

慧にちょっと戸惑ってたけど,ただ好きなだけ。

異性とか関係なく,それでいいよね。



「? なんだろ」

「どうしたの?」

「なんでもない」

「じゃあ,帰ろっか。また何か言いたくなったら言って? 私が聞いてあげる」



昔みたいにお姉さん気分で言っても,慧はありがとうと笑ってくれる。

でもそのあと,顔を逸らしてうつ向いてしまった。

聞いてみても



「なんでもないよ」



という。

その声に,いつもの覇気がないような気がしたのは気のせい?