恋と旧懐~兎な彼と私~

「で,どうする? 人いなくなるまで待つ?」

「ううん。俺人通りなさそうな階段見つけたんだよ。そこの踊り場が良いと思う」

「はいはい」



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「それで,何があったの?」

「それがね!?」

「う,うん」



座りながら私が尋ねると,慧は私の腕にしがみついて,顔をずいっと近づけた。

勢いに若干引きながら,私は離れる。



「俺,帰る前になんか飲もうと思って,自販機に行ったんだよ……聞いてる?」



ーくすっ。



「ちゃんと聞いてるよ」



なんだか,お姉ちゃんにでもなった気分だ。



「そしたらね,俺,100円入れ損ねて落としたんだよ。そしたら……」



慧がチラッと私に視線を向けた。



「そしたら?」

「たぶん先輩が拾ってくれた。その人が」

「一目惚れした人?」

「うん。なんかちっちゃくて童顔の人で,すっごい可愛い笑顔ではいって」

「それで,好きになっちゃったのか」

「うん。なんか良い匂いした。こう,ふわっと」