「彼方ごめんね。私じゃ支えられないや」

彼は下を向いて何も言わなかったし、私は彼の気持ちを読み取ることは出来なかった。元々不器用な性格もあるのかもしれないけれど。


「色々終わったら私が出ていくよ」


それだけ言って私は寝室に行った。その時の聞こえた「…ごめん」は間違いなく彼方の言葉だった。

スッキリすると思っていた。沢山泣いたもう涙なんて出ないと思っていた。だけど目を瞑った瞬間、真っ暗な世界に高校生からの彼との記憶が映された。

そこに映る私たちは笑顔だった。幸せそうだった。仲良しカップルだった。



枕が濡れていた。私の頬には温かい雫が流れていた。

私は彼のことが大好きだった。何にも代えられないくらい大好きだった。日常の中から彼が消えただけなのに、それだけとは思えないほど私の中で大きな存在で、自分よりも遥かに大切だった。

悪い記憶ばかりじゃない。彼は優しい人だった。彼を変えてしまった理由は彼にしかわからないけれど、いいところも沢山ある人だった。


だから好きになった。