ばいばいって言えるまで

彼女はずっとおれの帰りを待っていた。静かな部屋で、たったひとりで。

そのくらい大切にされていた。なんでそんな事にも気が付かなかったのだろう。



合わないのなら、仕事なんて辞めてしまえば良かったのに。仕事なんて沢山あったのに。

彼女はたったひとりしかいないのに。失ったらもう自分の元へ帰ってくることはないのに。


一番大切にしなければいけなかったのは、愛華だったのに。


もっと向き合えば良かったのに。

大切にしなければいけないものは確かに、そこにあった。


大好きだった。
性格もおれを呼ぶ優しい声も幼さが残る顔も、小さな身体で頑張っているところも、笑い声も、

全部全部大好きだった。
大切にしたかった。
甘やかしたかった。

一緒に幸せになりたかった。




泣く資格なんてなかった。だから泣かなかった。だけど、今日ばかりは涙がはらはらと落ちていった。

滂沱と流れる涙を止められなくなった。
全部自分の過ちなのに、自分のせいで惨憺たる結果に終わっているのに。



一番泣きたかったのは彼女だったのに。