ばいばいって言えるまで

彼女は今何をしているのだろう。何を考えているのだろう。おれの頭の中は愛華でいっぱいだけど、彼女は忘れてしまっているだろうか。

彼女がいない部屋はとても荒れていた。ゴミ箱にはスーパーのお弁当のゴミ、掃除だってまともに出来ていなくて、チラホラ埃が見える。


料理なんて以ての外だった。
ご飯を炊いても水が多くてベチャベチャだったし、簡単そうに見える卵焼きだって焦げてしまった。洗おうとした茶碗は割ってしまうし、野菜は上手く切れないし、何も出来なかった。

やるせなかった。彼女に頼っていた、と痛感した。




彼女がいたときいつも家は綺麗だった。ゴミも片付いていた。栄養の考えられた食事がいつも並んでいた。それはきっと簡単なことじゃなかった。

仕事をしながらそれらをするなんて、おれには出来なかった。彼女を傷つけることしか出来なかった自分に出来るはずがなかった。



「毎日ご飯作ってるのに」
「勝手に作ってんじゃん。恩着せがましい」

「…それは」
「愛華にはわかんねえよ。ずっと家にいられる仕事なんだから」

吐いてしまった言葉は取り消せない。