ばいばいって言えるまで

物に当たっていることが増えたのにもすぐに気がついた。おれに腹を立てているのだと思っていた。

余裕がなかったからイライラにイライラで返すことしか出来なかった。言いたいことがあるのなら冷静に伝えて、と思っていた。


だけど、冷静に伝えられたところで自分の態度なんて変わらなかった。それを知っていたから物に当たることで表現していたのに。

彼女の声だったのに。そんな所まで気が回らなかった。



彼女はきっと寂しかった。
おれと一緒に夜ご飯を食べたくて毎日毎日作っていた。
多分前のように話したかった。仲良くしたかった。


おれにイライラしていたから怒っていた訳では無い。伝わらないことにイライラしていた。

そんな簡単なことにも離れてからしか気がつけなかった。





別れようと言われてから、彼女は少しずつ準備を始めていた。家のものがダンボールに詰められて、段々空っぽになっていった。

片付けが終われば彼女はいなくなる。その背中を見て、何度引き止めたくなったかわからない。言う資格などないのに「行かないで」と言いたくなった。


それでも自分が言える言葉なんて「ごめん」の一言しかなかった。そして、彼女はおれの前からいなくなった。