「ただ、菅野さん。知っての通り、絵画の世界は権威がモノを言う。大切なのは箔付け、具体的に言えば、メジャーなコンクールで賞を取ることだ。」


「はい。」


「その為には、あらゆる機会を逃さず、積極的に打って出ることだ。下手な鉄砲数撃ちゃ当たるでは困るが、自信のある作品については、躊躇わずに出品して行くことだ。」


その教授の言葉に、頷いたマーティは


「その点についても、是非先生のご教示をいただきたいと思います。それで、これからの京香の活動拠点なのですが・・・。」


と話題を転換する。


「うん。私としては、出来ればここに戻って来てもらいたいと思っているんだ。」


「えっ?」


教授の思わぬ言葉に、私は驚く。


「私のアシスタントのようなことをしてもらいながら、自分の創作活動を続けて行けばいいんじゃないかな?」


「それはいい考えだ。京香、是非そうするといい。」


教授の提案に、マーティは頷いたが


「ありがとうございます。ですが、それでは先生にご迷惑が・・・。」


私は躊躇う。


「まぁ貧乏大学の貧乏教授の内情を、菅野さんもよくわかってるからな。心配になるのも無理はない。」


「そんなことは・・・。」


「だが、君が帰って来てくれれば、後輩たちのいい刺激にもなると思う。まぁそんなに高い給料は出せんのは確かだから無理にとは言わんが。」


そう言って笑う教授に


「また先生のもとに戻らせていただけるなら、心強い限りですが、もう少し、いろいろ考えさせていただきたいと思います。勝手を申し上げて、すみません。」


私は頭を下げる。


「それはもちろんそうした方がいい。ただ、君がどのような決断をしても、私は私の出来得る限りの支援はさせてもらうから。よく考えてみなさい。」


恩師の暖かい言葉が、嬉しかった。