12月に入ると、どこの企業も同じだろうが、慌ただしさ、忙しさを増す。


俺の勤める広陽信用金庫も例外ではない。地元に密着する信用金庫には、中小企業さんからの年末の資金繰りの相談も増える。


この日もいつもより遅く、疲れた身体を引き摺りながら、帰宅の途に付いた俺。


最寄り駅に降り、歩いて行くうちにアイツの家が見えて来る。目指す我が家はもうすぐその先にある。


それはずっと変わらぬ光景、変わらぬ位置関係。しかし、そこに住む人間の関係性も変わらないかと言えば、話は別だ。


今日はアイツは星空を眺めてはいなかった。いや、アイツだって、毎晩そうしてるわけじゃないだろうし、俺がいつもそれに出くわしてるわけでもない。


「ただいま。」


玄関のドアを開け、自宅に入った俺が挨拶すると、居間でテレビを見ていたおふくろが


「お帰り。」


と声を掛けながら、腰を浮かす。俺の夕餉の用意をする為だ。


着替えて、席に付けば湯気を立てた、暖かい料理が俺を待っていてくれる。大学に行っていた4年間を除けば、ずっとこれも変わらぬ光景。


いや、やっぱり変わってる。子供の頃に比べれば、時間はずっと遅くなってるし、家族が一同に会して、食卓を囲む機会はめっきり減った。今は弟妹はここを離れているからまだマシだが、みんなが帰ってくる度に用意をしなければならないおふくろは大変だろう。


「京香ちゃん、また東京に行っちゃうんだって。」


食事を始めた俺の前に陣取って、おふくろが話し掛けてくる。たぶん、既に食事を終え、今は風呂に入っている親父にも、同じようにしてたはずだ。


おふくろが家族に振ってくる話題は、当然相手によって違うが、今の話題は親父と同じだったかもしれない。


京香の家とウチはずっとご近所さん、そして同時期に子育てに勤しんで来た「同志」だ。親近感は強いし、親はお互いの子供に、自分の子供のような親しみを感じているようだ。だから俺達も「きょうだい」なんだろうな。


「夢を追い掛けるのも結構だけど、女の子が30にもなって、結婚もせず、フラフラしてるんじゃ、やっぱり心配よねぇ。」


う〜ん、見事なほどに昭和の価値観丸出しの発言だが、しかし親からすれば無理からぬことなのかもしれん。


だって、「定職のある30歳の男の子」である俺だって、いつまで1人でいるんだと、事ある毎に詰められてるんだから・・・。