「本当は私、忘れられたままでいいの」

宮里は立ち上がり、階段を降りていく。その後ろ姿を、俺はただ見つめることしかできない。


前にもこんなことがあった。


——そうだ。宮里が泣いていて追いかけたけれど、俺の言葉のせいで傷つけてしまったんだ。


『あのアカウントのことだけど、宮里なの?』

宮里が否定したら、俺も拓馬から聞いた内容を話そうと思っていた。だけど、もっと違う言葉をかけるべきだった。

『〝違う〟って言ったら、信じてくれるの?』

宮里は涙を溜めて笑顔を作りながら、俺を拒絶した。

早く追わないと。そう思って足を動かしたとき、背後から気配がした。

『紗弥って、嘘つきだから近づかない方がいいよ。私も騙されたし』

振り返ると、そこには女子生徒が立っていた。

……顔が思い出せない。だけど、間違いなく俺も話したことがある相手だった。


自分が被害者のように振る舞っていることに苛立って睨みつける。


『全部お前がやったんだろ』

顔を強張らせながら、その女子は『私じゃない!』と言い返してきた。
少し言いあいのようになり、俺は会話を中断して、急いで宮里を追いかけた。けれど、校内を探しても宮里は見当たらなかった。


そして俺は、翌日に宮里の存在を忘れてしまったんだ。

宮里本人が忘れてほしいと願ったのなら、俺は思い出すべきじゃなかった。


だけど、力になりたかったんだ。


結局は俺のエゴでしかなかったけど、宮里に笑顔になってほしかった。


辛い思いをしてほしくなかった。

いつかちゃんと伝えたいって思っていた言葉もあった。



『本当は私、忘れられたままでいいの』


だけど、宮里。俺は忘れたくなかったよ。