宮里と放課後にでかけた翌日から、注意深くクラスの様子を観察した。

試しにクラスの男子に、宮里の名前を二日連続で出してみた。

すると前日も俺の後ろの席にいる女子だと説明したにも関わらず、「宮里って誰?」と同じ反応をされたのだ。


宮里の言う通り、俺以外の人には宮里の記憶が消えている。
俺はというと、今では日を跨いでも宮里のことを忘れることはなくなっていた。前日にどんな会話をしたのかもちゃんと覚えている。

何故こんな現象が起こっているのかわからない。それに時折宮里が思い詰めたような顔をするのが気になっていた。


クラスのやつらに忘れられているからという理由だけではなく、なにか別のことで悩んでいるように思えたけれど、踏み込んでいいものなのか迷う。


「うわ、今度は由絵じゃん。英里奈と真衣が一緒にいるし」
「あそこのグループ最近こういうの多くない?」


近くに座っている女子たちが、こそこそと話しているのが耳に入ってくる。

落合由絵がいる教卓の方向を見ると、ひとりで座っていた。誰とも話をせず、スマホをいじっているみたいだ。

落合はいつも小坂真衣たちと一緒にいたはず。小坂の席がある廊下側に視線を向けると、山崎英里奈とふたりで落合の方を睨むように見ながらなにかを話している。


先週あたりまでは、山崎が輪から抜けて別の女子と一緒にいた。それなのに今度は落合に変わったらしい。


『このままでいいの?』

確か俺、山崎がひとりになっているのを見て、誰かに言った気がする。だけど誰にいったんだっけ?

小坂や落合とは時々話すけど、口を出した記憶がない。

思い出せずもやもやとした不快感が思考を覆う。

山崎たちのトラブルの理由はよくわからなかったけど、小坂を怒らせたらしいというのはみんなわかっていて、関わりたくないという人がほとんどだった。


誰かが仲間外れにされている状況は見ていて気分がいいものではない。

かといって事情もよくわからない俺に解決できる問題でもないことはわかっている。



話すことがあれば、山崎と普通に話していたはずだ。じっと山崎を見ていると、あることに気づいて目を見張る。

山崎が持っているスマホケースと、小坂が持っているスマホケースはクマのような耳がついていてお揃いだ。

席を立って、さり気なく落合が持っているスマホケースも確認してみると、同じ形で色違いのようだった。

そして俺は、もうひとり色違いで同じスマホケースを持っている人を知っている。

席に座っている宮里は、複雑そうな表情で落合や小坂たちのことを見つめていた。