スノー&ドロップス

昨夜のことを思い出しながら、手首を軽く握りしめる。
 これ以上、藤春くんと関わったらイケナイ気がして。

「えー、なんで? これから、一緒にショッピングしようって言ってたのに」

 本来なら、彼の衣装選びに付き合うはずだった。何日も前から約束していたことだけど、鶯くんの目が脳裏に焼き付いて離れない。

「ブラウス返すだけなら、学校でいいでしょ。それなのに、君はここへ来た」

「学校では、人目が……気になるので」

 慌てて反論しようとするけど、それ以外の言い訳は見つからない。
 自分でも、どうしたいのかわからない。帰らなければという思いと、自由に買い物をしてみたい気持ちが押し合っている。

「じゃあ、ちょっとだけ。タイムリミットはいつ?」

 迷いの色が顔に出ていたのだろう。藤春くんは、スマホに目を向けながらアラームの画面を見せた。

「えっ、えっと……正午、です」

 反射的に答えてしまった。鶯くんの塾が終わる時間だ。
 了解とアラームを設定して、藤春くんが私の手を引く。細くて冷たい指が、余計に心臓の音を掻き立てる。

 もう約束ごとはないのに、とても悪いことをしているような気分。それなのに、感じたことのないワクワクとドキドキとした感情が湧き上がってくるのはなぜだろう。

「意外と時間ないよ。早歩きで行こう」

「は、はい」

 裏声になったのもおかまいなしで、藤春くんについていく。
 人の波をかき分けながら、いつの間にか二人とも走っていた。追い風が気持ちいい。