スノー&ドロップス

 湿った風が体を包んで、(あら)わになったうなじや首筋に汗がにじむ。
 土曜日の朝。塾へ行く穏やかな背中を見送って、鶯くんに内緒で葉歌駅から先へと向かった。

 昨夜の出来事を振り返ってみても、列車に揺られる体と同じ。ふわふわとして現実味はない。
 ただ、広い窓に映る首の横側には、手の甲に使う大きな正方形の絆創膏が違和感たっぷりに主張している。その姿を見て、ひとつに結っていた髪を下ろした。

 鶯くん以外の人と待ち合わせて会うのは初めてで、胸を埋め尽くす名は、不安と緊張という感情しかない。

 いくつか駅を通り過ぎて、待っていたのは綺麗なストレートヘアの女子高生。ネイビーのワンピースを見にまとった、藤春雪だ。

 学校以外でも、ちゃんと女子として過ごしているんだ。こちらに気づき、彼はしとやかに手を振った。

「おはようございます……今日は天気が良いですね。 それと、これありがとうございました。ではさようなら」

 まくしたてるような口調で、私はブラウスの入った小さな紙袋を差し出す。
 何度も脳内でシミュレーションした言葉さえ、微妙に声が震えた。そんな私の様子を見てか、藤春くんはきょとんとしながら口角を上げる。

「どうしちゃったの? そんなかしこまらなくてもいいのに。しかも、さよならって?」

「返したら……、帰るつもりなので」