スノー&ドロップス

「今度、切ろうかなって……思ってる」

 だから、私は意地を張った返答をする。(みにく)い悪あがき。

 鶯くんが兄という存在でなければ、もっと自分の気持ちに正直で生きられたのかな。言いたいことを抑えずに、堂々と前を向いていられたのでしょうか。

「そっか…………ああ、やっぱり。想像より少し早かったなぁ」

 髪を撫でる鶯くんの手が止まった。
 鏡の中にいる彼の瞳が、いつかと同じ真っ暗闇で空虚(くうきょ)な丸に見えた。

 ぞわっと身震(みぶる)いを感じるほど狂気じみた眼で、私は蛇に(にら)まれた蛙のように動けなくなる。

「何……が?」

「茉礼はいい子だよ。可愛くて仕方がない」

 頬から唇、唇から喉へと這う指が下りていく。

「だから、二度と悪いことが出来ないように、この細い手首に鎖でも付けて閉じ込めておこうか」

 手首に触れる柔らかな唇。前に鶯くんの歯形をつけられた場所。がっしりと掴まれた上腕。首に埋まる彼の綺麗な黒髪が、夕方と同じ光景を映し出した。

 皮膚を噛まれる激しい痛みに、「ううっ 」とこらえた体がよじれる。

 鶯くんの甘い匂いが広がって、突き立てていた歯がそっと離れた。
 潤んだ目の私に言葉を投げかける。冷静に、そして、したたかに。

「こんな鬱血痕(うっけつこん)まで付けるなんて。これ、あの()だよね。まさか付き合ってるの?」