スノー&ドロップス

 洗面室の鏡台に映る自分の首筋には、何かを隠す不自然な絆創膏(ばんそうこう)が貼ってある。

 藤春くんと別れてから駆け込んだ駅のトイレ。のぞき込んだ鏡で知る。首筋に赤くなった(あと)が浮き出ていること。これが、俗に言うキスマークだと。

 髪に隠れて見えにくい位置ではあったけど、彼に言われた通り目隠しをした。

 張り付くテープをゆっくり剥がす。(あざ)のように赤くなった部分を露わにしながら、夕焼けに染まる光景を脳裏に呼び起こして。

 柔らかな感触と吸い付くような感覚。思い返すだけで、全身から炎が上がるように恥ずかしい。

 ファーストキスは好きな人としたい。そんな淡い思いを描いていた昔の自分を忘れかけていた。
 そんな日が訪れることは、もうないと分かっている。初めから、叶わぬ夢だったことも。


 衣服をするりと脱ぎ、湯気の立つ浴槽へ身を沈める。鶯くんとの約束事は消えてしまったのに、こんなに後ろめたい気持ちになるなんて私はどうかしてる。

 まるで、彼に服従(ふくじゅう)していた方がよかったみたいに、言葉にならない喪失感で埋め尽くされていた。
 前髪を切れないでいること自体が、それを象徴している。

 (いびつ)な関係でも良い。いつまでも私の全ては、鶯くんのものであって欲しかった。と心が叫んでいるみたい。