「……茉礼、今日は学校どうだった? やっぱり眼鏡ない方が過ごしやすい?」

「それは……そうなのかも、しれない」

 裸眼で登校して三日目。初日の反応こそ、クラスメイトは珍魚を見るような目を向けていたけど、空気の人間への興味はすぐに飽きる。

 嫌がらせは、あの日を境に嘘のようになくなり、特に何もない日常に戻った。鶯くんが守ってくれた、あの時と同じように。

「じゃあ、この機会に目を隠す約束事は除外しようか」

「えっ、いいの?」

 一瞬だけ、鶯くんの目が細くなる。

随分(ずいぶん)と晴れやかな目をするんだね。そんなに、あの眼鏡をするの嫌だった?」

 慌てて首を振りながら、外せる嬉しさがそんなにも顔に出ていたのかと思う。
 鶯くんは穏やかに笑みを浮かべながら両眼を細めて。

「まあ、鮮明に見えることばかりが良いとは限らないけどね」と、静かに微笑んだ。

 鶯くんの指先が、額にかかる前髪をふわっと撫でる。

 この眼球にくっきりと映る彼の瞳は、昔と変わらない深い夜の色をしていた。
 柔らかそうな唇は知らない女子に重ねられて、その唇が私に触れる時は、絶対に訪れない。

 クッションをギュッと抱き締めながら、瞼と視線が落ちていく。

「鶯くんは、もう……私なんて必要ない?」