気付いている。ただの白いシャツなのに、別の物だと知り得ている。

 ドクドクと心臓から何かがあふれ出す。繋がれた手が強く締め付けられて、表皮を通り抜けて骨を握る勢いだ。……痛い。

「どこか痛む?」

 手を引きながら「ここ?」と、親指をグッと押し付ける。圧迫されたところから痛みが伝わって。

「それとも、ここかな」

 下唇を親指でなぞり上げて、そのまま人差し指が胸の間をトンと突く。

「心臓、痛む?」

 闇色の瞳が向けられて、声が出ない。身体中の筋肉から神経の全てが震えている。


「ねえ、今までどこにいた?」

「あ、あの……」

 強引に引き寄せられた体は、鶯くんの腕にすっぽりと飲み込まれた。優しい匂いで埋め尽くされて、何も考えられなくなる。

「かわいそうな茉礼。そんなに怯えて。きっと怖い思いをしたんだね。いつも僕は見てるから」

 鼓動を乱しているのは彼なのに、頭に添えられた手のひらは温かくて。撫でる指先を振り払えない。

 静かな夕焼け空。不吉を知らせるように烏の鳴き声だけがしている。