葉歌駅を三つ乗り越し、東雲駅から徒歩二分の場所に藤春家は佇んでいた。白い壁の三階建で、一階に掛けられている木目の看板には〝hair & room エアシナ〟と洒落た字体で書かれている。
氷の国に住んでいるわけではなかった。頭を過らなかったと言えば、嘘になる。雪女の末裔というくらいだから、多少は覚悟をしていた。拍子抜けなのか、安心したのか。
今思い返すと、資料室で彼が持っていたのはカットハサミだった。それにしても、実家が美容室だったなんて。
透明なドアを引いた先には、四台のスタイリングチェアが並び、客のふくよかな中年女性が一番奥に腰掛けている。その背後に緩いパーマをひとつに結っている女性の姿がある。
切り終えた髪を整え、ツルツルしたカットクロスを外しながら彼女はこちらに目を向けた。
「おかえりなさい。その子……」
「ただいま。また後でね」
手を引かれたまま、彼と階段を駆け上がる。体が熱くなって息が上がる。指だけが別世界にあるように冷たい。
「あの人に捕まると面倒だから。ちょっと、ここで待ってて」
氷の国に住んでいるわけではなかった。頭を過らなかったと言えば、嘘になる。雪女の末裔というくらいだから、多少は覚悟をしていた。拍子抜けなのか、安心したのか。
今思い返すと、資料室で彼が持っていたのはカットハサミだった。それにしても、実家が美容室だったなんて。
透明なドアを引いた先には、四台のスタイリングチェアが並び、客のふくよかな中年女性が一番奥に腰掛けている。その背後に緩いパーマをひとつに結っている女性の姿がある。
切り終えた髪を整え、ツルツルしたカットクロスを外しながら彼女はこちらに目を向けた。
「おかえりなさい。その子……」
「ただいま。また後でね」
手を引かれたまま、彼と階段を駆け上がる。体が熱くなって息が上がる。指だけが別世界にあるように冷たい。
「あの人に捕まると面倒だから。ちょっと、ここで待ってて」



