スノー&ドロップス

「とりあえず、それ着なよ。後ろ向いてるから」

「……ありがとう、ございます」

 こんな風に、家族以外の人から親切にしてもらったことなんて何年振りだろう。
 ゆっくりと(そで)に手を通す。ボタンが(ほつ)れて肌けたブラウスを隠すように、カーディガンの前を閉じていく。

 まだ指先は小刻みに揺れて、上手くボタンをはめれない。数分前までの恐ろしい時間が嘘のように、ここは穏やかな空気に包まれているのに。

 レンズが破損した眼鏡を持って、私に背を向けている。

「あーあ、割れちゃってる。これどうす……」

 後ろ向きのカッターシャツを無意識に掴む指。正体の分からない大きな鼓動に押し潰されそうになる。

「少し、このままで……いさせて下さい」


 きっと、頭が正常な判断を出来なくなっている。
 誰か側にいて欲しい。この心臓が落ち着くまで。


「……うん」

 背中越しにうなずく藤春さんは、そのままの状態で私の隣に腰を下ろした。