中央玄関を出て彼女の歩幅が狭くなる。徐々に間隔が縮まって、俺も斜め後ろで立ち止まった。正門の前に、東堂高校の生徒が立っているからだと気付いた。

 青砥鶯祐だ。
 想像以上の長身で、見下ろされたら威圧的に見えるだろう。

「どうして? わざわざ、迎えに来てくれたの?」

「茉礼が心配だったから」

 彼女は戸惑っているようだった。
 高校生にもなった妹が心配で、連絡もなしに迎えに来るとは度の過ぎたシスコンなのか。それにしても束縛が強過ぎないか。

 急に刺すような視線を感じた。彼女の肩を抱き寄せながら、蛇のような鋭い目を俺に流し向けている。

 なんだ? この(あにき)
 どこからか、青砥さんの顔まわりへ蝶が飛んできた。鮮やかなブルーをした蝶だ。

「夏になると変な虫が増えて困る。駆除は早めにした方がいい。蜂でも蚊だろうと、例え蝶だとしてもな」

 羽根をくしゃっと握り潰されて、蝶は弱ったように地面に落ちた。ぴくぴくと体を動かしている。

 これは俺に対する忠告なのか?
 妹に近付く奴は、全て敵と言いたいのだろう。

 青砥鶯祐に連れられて、彼女の背中は小さくなって行くのに、胸の中を漂うモヤは加速して大きくなっていく。

 横たわる蝶の羽根を、そっと指で擦る。鱗粉(りんぷん)が舞って、ぱたぱたと動きを強め出す。
 そのうちに空へと羽ばたいて、蝶の姿は見えなくなった。