スノー&ドロップス

 一年五組の教室に戻ると、青砥さんが帰りの支度をしていた。単行本を手にしているから、図書館から帰って来たところだろう。

 鬱陶(うっとう)しそうな前髪は相変わらず下りている。眼鏡もない方が可愛いのに。

 他に誰もいないからなのか、静か過ぎる空間は、やけに物音が響く。

 どうしてなのか、彼女と顔を合わせるのが気まずいと感じている。後ろめたい事をして来た、なんて思っていないのに。

 横を通り過ぎる時、青砥さんは少しだけ俺に顔を向けた。「さようなら」と挨拶しようと思ったのか、空気の異変に気付いたのか。

 それとも、(けが)れた物に軽蔑の眼差しを向けたのか。分厚いレンズの向こう側を、今は直視出来る気がしない。


 ひと気のない廊下、足音が響く階段。一定の距離を保ち彼女の後ろを歩く。細い手足を隠す長いスカートと靴下の長さはアンバランスで、ガラス玉のような瞳に被さるレンズと髪は不格好。

 可愛らしい声を封印しているのは彼女の意思じゃない。見て分かるのは、歩く度に揺れる黒髪が綺麗だってことだけ。

 青砥茉礼は、全てが謎に包まれた人だ。