体の中で不吉な音が鳴る。無機質のような動きのない目は、夢で見た表情と似ていた。

「鶯くん? こんな時間に、どう……したの?」

「約束事を増やそうと思って。ここに僕以外の人間を入れないって」

 やっぱり、気付いていた。いつも通りの口調だけど、怒っているみたい。

「いつから茉礼は嘘付きになったのかな。部屋に男を連れ込むなんて、イケナイ子がすることだろう?」

「違う、あれは……」

 藤春雪が……男子だと知ってる。どうして⁉︎

 声が震えて上手く話せない。夢と重なって、体は化石になったように動かなくなる。怖い。

 不意に腕を引かれて。キスを落とすような柔らかな感触から、手首に歯を突き立てられる痛みへ変わった。動物に喰いつかれるのとは違う。

 でも痛みはじわじわと伝わって、噛まれている感覚。

「いっ、痛い! 鶯くん? 何、して……」

「今度破ったら、次は見えるところに付けるから。約束は必ず守るんだよ」

 手首を押さえる手が小刻みに震えた。甘噛みの余韻(よいん)がちりちりと(うず)く。

 子守唄のように安心する声で奏でられた「おやすみ」は、聴き慣れない音色に思えた。

 開いたドアから漏れた薄い光。くっきりと残されていた歯型。


 ーー私の知らない鶯くんがいる。