氷が溶けるように、肌の色が戻っていく。ひび割れがなくなり、毛先から爪の先にまで、色が蘇った。

「……藤春……くん?」

 半信半疑に首をかしげる。ピクリともしなかった藤春くんのまぶたが、ゆっくりと持ち上がっていく。

 奇跡が起きたのだろうか。そう思ったのも、束の間のこと。全身に電気が走ったように、体が動かなくなった。なにかを考える余裕もなく、声も出せない。

 ああ、私はこのまま死ぬのか……。
 どこか冷静な自分がいて、最期を悟った。

 後ろ髪を引っ張られている感覚に襲われる。そのすぐあと、ザッと強い衝撃がきて、私は前へと倒れ込んだ。

 誰かが支えてくれている。藤春くん……なの?


「俺の大切な人なんだ。助けることはできないの?」

 頭の上で何か聞こえる。手足が痺れて、感覚が薄れていく。

「残念じゃが、ない。愛する者の心を喰べることで、男の末裔は生き延びてきた。それができぬ者は息絶えてきた。初めからそう決まっとる。変えられぬ運命じゃ」

「じゃあ、今、俺が変えるよ」

 凍りついていく私の肌。小さく呼吸をするたびに、白い息が出る。

「俺の右目を代償にするから、彼女を助けて」

「そんなことが、できるわけ……!」