九月の始まりは、秋の気配がする。学校の花壇にはコスモスが咲き始め、湿っぽい風が吹き付ける。

 あの頃と変わらぬ黒髪をなびかせて、彼女は俺の前を通り過ぎた。学校では、挨拶すら交わさない。青砥さんが望むなら、そう徹するまでだ。

 朝のショートホームルーム、始業式の最中でも、彼女はちらちらとスマホを気にしていた。自然と目で追えば、いつも前列にいる彼女が目に入る。

 困り眉をさらに下げて、足早に校舎を出て行った。少し後ろから、勘付かれないよう追いかける。
 今日の青砥さん、なんか様子が変だったから。

 駅へ向かうことなく、途中でレンタルした自転車で隣町へ入った。どこへ行くつもりなんだ?
 しばらく漕いでたどり着いたのは、人気の少ない倉庫だった。少し前に入って行ったきり、彼女は出てこない。

「……青砥さん?」

 歩幅を広げ、猛ダッシュで半開きのシャッターへ駆け込むと、体格の良い男たちが青砥さんを取り囲んでいた。

「藤春……くん?」

「あっれー? 一人で来る約束じゃなかったっけ?」

 薄気味悪い笑みを浮かべて、そばにいた男が青砥さんの肩に手を回す。わらわらと七人ほどいるけれど関係ない。沸々と怒りが込み上げて、今にも掴み掛かりそうだ。