カレンダーの星印を指でなぞりながら、小さく息を吐く。ついさっきまで重ねていた唇に触れて、ガクリとベッドへ倒れ込んだ。

 鶯くんとキスをするたび、藤春くんの顔が頭に浮かんで胸が苦しくなる。チクチクと針穴が広がっていき、いつしか心は穴だらけになっていた。

 守ってあげられるのは、私しかいない。そう言い聞かせても、背徳感は消えるどころか大きくなっていく。

 八月五日。今日は地元の花火大会がある。幼い頃、一度連れて行ってもらったきり、足を運んだことがない。
 今年は珍しく、鶯くんが一緒に行こうと誘ってくれた。正直驚いたけど、楽しみでもある。

「腰紐結ぶから、手広げてくれる?」

 手慣れた様子で、お母さんが桃色の紐をキュキュッと締める。
 先日、いきなりお願いして、お下がりの浴衣を着て行くことになったのだ。浴衣を貸してほしいと言ったら、お母さんは嬉しそうに箪笥の奥から出してきてくれた。

「茉礼がお祭りへ行きたいなんて、何年ぶりかしら。家にこもってばかりだったから、お母さんびっくりしちゃったわ」

 ウキウキという効果音が聞こえてくる。
 長い黒髪を後ろで結ってもらったのも、初めてのこと。「なにもしなくても素敵だけど」と言いながら、私の唇に薄いリップクリームを塗ってくれた。

 鏡に映る姿を見て、これが私なのかと、恥ずかしながら心が踊った。