なにが起こったのか、理解できなかった。
 藤春くんは、家系の事情で女の子として生活しなければならないって。スカートや仕草で、誰が見ても疑わないような姿を作り上げてきた。そう教えてくれたのに。

「雪ちゃん? いきなりどうしたのその制服! あと髪も!」

「似合いすぎじゃない? え、異次元? イケメンすぎるんだけど! 推せる!」

 わらわらとクラスメイトが集まって、あっという間に藤春くんは囲まれた。
 戸惑っている感じに見えたけど、目が合った瞬間そらしてしまった。初めから、私には不釣り合いなほど遠い存在だったのだと、改めて思い知る。

  朝のショートホームルーム後も、終業式が終わったときも、藤春くんのまわりには人集りができていた。
 一言も言葉を交わすことなく帰りが訪れて、階段を下り終えた時だった。手を引かれ、死角に連れられたのは。

 無数の足音が響く下で、狭いスペースに二人で隠れる。

「……藤春……くん?」

 壁側に立つ私に被さるように、藤春くんが見下ろす。

「やっと二人になれた」

 死角になったところで、藤春くんが少し離れた。誰も近寄らないし、人がいるとは思わないだろう。