スノー&ドロップス

「……約束は、できない」

 部屋着の袖口を握りしめながら、声を殺す。いつでも会話を終えられる位置に、指先はあるのに、押せないのはどうしてだろう。
 名前の分からない寄生虫が、胸の中を(うごめ)いている。

「もう、私にかまわないでください。あなたの望みを叶えることは……できないから」


『ずっと、声が聞きたかった』

 じわじわと体中の熱が上昇して、膝に顔を伏せる。
 場違いな状況だとわかっているのに、心臓の音がおさまらない。

 早く、電話を切らなければーー。

 下で物音がした。玄関を開ける鈍い音だ。お母さんの仕事はまだ終わらないから、おそらく鶯くんだろう。
 洗面所へ行ってから、自分の部屋へ入る前に必ずここへ確認に入る。

「……き、切りますね」

 さらに声を潜めた。淡々とした口調で、なるべく感情を抑えて。
 もうすぐ、鶯くんが二階へ上がってくる。

『会いたい』

「……! ごめん……なさい」

 一方的に遮断すると、くしゃけた布の中へスマホを隠した。同じくらいのタイミングで、部屋のドアが静かに開く。
 手錠に繋がれたままの私を見て、鶯くんは安らかな表情を浮かべる。留守中に飼い犬が逃げていないか確認する(あるじ)みたいに。

「ただいま」

「……お、おかえり」