スノー&ドロップス

 ……いけにえ?

 腕の力が緩み、捕えられていた体が自由になった。すかさず私は、前へ倒れ込む。檻から逃げ出そうとする小鳥みたいに。

「茉礼の心を、身体を喰べるつもりなんだろ? そうしたら、呪いは解けて真っ当な人として生きられる……。なにか間違ってるか?」

 ーーしがらみから解放してあげたいんよ。

 ーー茉礼ちゃんなら、叶えてくれるかもしれんって思ったわ。

 月さんの言葉が、頭の中をぐるぐると浮遊する。
 話しかけてくれたのも、優しくしてくれたのも、呪いを解くため?
 今さら何を狼狽(うろた)えているの。最初から、手伝ってほしいと言われていたじゃない。

 それでも、私の命と引き換えであることは衝撃的で、とても冷静ではいられない。
 だって、友達だと言ってくれた言葉も、一緒に笑った時間も、すべては私を取り込むためのまやかしだったことになるから。

 あふれそうな涙をこらえながら、藤春くんを見た。
 心のどこかで、否定してほしかったのかもしれない。鶯くんの話は間違っている。心を通わせるだけ、私の死を望んでいるわけではないと。

「……違う、違う。そんなつもりじゃない。俺は、ただ、青砥さんのことが」

「二度と僕の茉礼に近づかないでくれるかな。茉礼は、死んでも渡さない」

 ガラス玉のような瞳から、雫がこぼれ落ちた。その涙は、これまでの私たちの時間を打ち消した。
 一人で立つことさえままならない私を抱えて、鶯くんが電車へ乗る。なにも言えなくなった藤春くんを置いて。

 抱きしめられる腕の隙間から、そっとホームへ顔を向けると、藤春くんと目が合って。悲しそうにまぶたは下がり、ドアが閉まったとたん、視界は真っ暗な闇に閉ざされた。