スノー&ドロップス

『少し気分が悪くて休んでた。もう帰るから心配しないで』

 それだけ返信して、私の手へ戻した。
 なだめながら私を抱き寄せて、藤春くんが頭をなでる。失敗して泣く子どもを、優しくあやすように。

「まだ昼間だし、今から帰ろう。大丈夫だから、ゆっくり息吸って、吐いて」

 藤春くんの制服を掴んで立つのがやっとだったけど、言う通りにしたら、苦しかった呼吸が楽になってきた。
 早く帰らないと。離れようとしたとき、次は長い振動が太ももに伝わってくる。
 反射的に手に取ったスマホには、鶯くんの名前が。出なければと頭では考えるのに、指は戸惑ってもたつく。


「……はい」

『茉礼、今どこ? 連絡つかないから心配したよ』

 穏やかな声。いつもと変わらない鶯くんの話し方に、少しだけ安堵する。
 正直に言えば、許してくれるかもしれない。そんな浅はかな思いとは裏腹に、口から出たのは。

「まだ、学校の近くで……。もう少し、時間かかるけど……大丈夫」

 身勝手な嘘で、鶯くんを裏切る。悪いと自覚していても、逃げてしまう。

『……茉礼は』

 電車の警笛音がして、声が聞こえなくなった。外からでもわかるほど、がらんとして乗客はいない。
 これが行ってすぐ、帰りの電車が来るはずだから、もうすぐーー。


「……え? どうし……て」