夏空の下。冷んやりとした手に身を任せ、生ぬるい空気の中を歩く。
 校門を過ぎ、坂を下ってバスに乗った。いつもは行かない方向へ進みながら、緑の景色を眺めている。

 カッターシャツにプリーツスカートの私たちは、他人からしたら女子同士に映るだろう。友達に見えていたらいいな。そんな思いを抱きながら、体温のない指が絡みつくたびにドキドキしていた。

 その矛盾に気づいたのは、どこか遠くの田舎町へ降りたとき。一時間以上は経っていただろう。名前も知らない場所に、二人だけしかいない。

「ここ、全然人いないね」

「……そう、ですね」

「まるでさ、誰もいない世界に、二人きりって感じ」

 一時間に一本しかない時刻表の横で、小さくなる車両を見送った。無人駅の改札を出て、線路に沿って道を行く。

「あの、手……いつまで繋いでますか」

「あー、そうだね。青砥さんがイヤじゃなければ、このままで」

「い、嫌とかは……ないですけど。友達、ですから」

 友達の定義がわからないけど。特に意味なんてない。鶯くんのキスと同じだ。

 藤春くんの笑顔は屈託(くったく)がなくて、まろやかなミルクコーヒーのような安心感がある。
 ガムシロップの甘さに、ほろ苦さを残すカフェオレみたいな鶯くんとは違う。


 ーーこのまま必要とされなくなるか、ずっと僕と生きていくか。