スノー&ドロップス

 小学一年の夏休み。淡い桃色と純白の色で埋め尽くされた凛名の子ども部屋。よく遊ぶドールハウスとウサギの人形が見つめる中、僕と彼女はキスをした。

 それはあまりに唐突な出来事で、僕はただ呆然(ぼうぜん)と床に腰を下ろしたまま固まるしかなかった。

「なんで、こんなことしたの?」

 気の抜けた声をする僕の質問に、彼女は楽しそうにケラケラと笑い声を上げた。

「昨日、リカとマサちゃんがしてたの。だから真似してみただけ。鶯ちゃんビックリした顔してる〜」

 リカとマサは、凛名がよく話している魔法戦士アニメの登場人物。

「でもこれって、両思いの子がするんでしょ」

「鶯ちゃん、凛名のこと嫌いなの?」

「……嫌いじゃないよ」

「じゃあ、好き?」

「なんでそんなこと、凛ちゃんに言わないといけないの?」

 僕は彼女のことが好きだった。
 でも、素直な言葉より先に恥じらいが前に出た。胸の奥に湧き出る淡い感情は、人に見せるものではないと子どもながらに思っていたから。

「凛名はねぇ、鶯ちゃんのこと世界一好き」

「お母さんのいない可哀想な幼馴染みだから、仕方なく言ってるんじゃないの」

 ぶっきらぼうに返した言葉は本心ではなく、嬉しさを隠すためのもの。

「鶯ちゃんは、鶯ちゃんだよ。幼馴染みだからじゃないよ! だって鶯ちゃん、かっこいいもん」

「そうゆう恥ずかしいこと、平気な顔して言うなよ」

「ほんとのことだもん。六年生になっても、中学生になってもずっと、鶯ちゃんのこと好きだよ」

 小指と小指を絡め合った子ども同士のよくある約束。

「大人になったら、結婚しようねっ」

 小さく尖った八重歯をみせて、凛名は笑っていた。


 ーーその三日後に、凛名は死んだ。