パン職人の店長を、好きになりました。




「店長……っ! このパン屋は愛されてる。常連さんの西村さんはここの食パンじゃなきゃ朝は始まらないんだって言ってたしっ新しく来店してくれたお客様も感想を言いにまた来てくれる人もいる! 店長のパンは、いつもみんなを幸せにしてるの! これからもここがあればみんなを幸せにできるっ」

「……っ……!」


 彩愛ちゃんがここまで感情を露わにして大きな声で叫ぶなんて想像もしてなくて、というかどこから聞いていたんだって思うくらいだ。


「ねえ、店長……私ね、私もここが大好きだよ……それに初めて食べた時から変わらない、店長のパンはとっても美味しい。他にはないどこか優しい味がする、店長しか作れないよ」


 彼女は涙を流して「ごめんなさい」と興奮から冷めたように我に返ったようにそう言うとうつむいてしまった。涙でぐちゃぐちゃな顔も可愛い……この手で抱きしめたい。


「……わ、私のこと無視しないでよっ! 庵はここを閉めて私と結婚す─︎─︎」

「菜桜は黙ってくれないかな、俺はこのパン屋を閉めたりしないし君とどうこうなることもないよ」

「は!? なんでよ……っ」

「だって俺、君みたいな性格ブスよりも純粋で一生懸命でこのお店を大切に想ってくれている子がタイプなんだ」


 彩愛ちゃんのことを思って言ったのに張本人は全く気づいてない。まだ俯いたままだ。

 彩愛ちゃんは俺のことを好きだと言ったけど、俺の方が君のことが好きなんだよ。


「だから菜桜は帰ってくれる? 俺にとって君は運命の人なんかじゃない」

「……っ! な、何よっ、庵ったらつまらない男になったのね! こっちから願い下げよ。もう来ることはないわ」


 ヒステリックに声を荒げ、勝手に怒って彼女は帰っていった。そして一方の彩愛ちゃんは……まだ俯いていて、顔を見せてはくれない。よく見ると少し痩せたかもしれない。